橋本治「江戸にフランス革命を!」を読む2

 で、江戸時代は実は、現在と同じ法人社会だといいます。「家」という名前の社会です。また、家の主ではないと一人前とは見なされません。家が社会を構成する単位なので、長男なら跡継ぎですが、次男三男は都会に出て、丁稚に出ます。職場と住居が現在のように離れるということはなくて、住み込みになります。なので、いきなり街に出てきた人が暮らそうとすれば、どこかに住み込みさせてもらうようになります。

 江戸の社会は実は契約社会です。ただし契約が万能なわけではありません。後になって契約のことを持ち出すことは嫌われるので、最初にそこで意思表示をしなければ現状固定になる。そのまま終身契約のような状態に移行してしまうみたいです。 

ただし、働き続けても、番頭止まりということもあり得ます。番頭のなかには、職場から離れて通うことも可能になりますが、それでも所帯がもてるわけでもない。一人前とみなされるわけでもありません。ですから、江戸時代の基準なら、サラリーマンはすべて所帯をもつなんてことはできない。半人前の存在になるのでしょう。江戸時代の自立とか一人前のハードルは、今からすればずいぶんとたかいなあという印象がしました。

 江戸時代から、現在にいたるまで物事は様変わりしても、人々の意識は容易には変わらない。今にいたるまで少子化の問題とか、非婚率が高いとか、パラサイト率が高いなんて、もろもろの社会問題が現在は語られています。託児所が足りないせいだとか、娯楽の多様化、女性の社会進出が理由のようにいわれていますが、それだけではないですね。人々の意識下にある、世間での「自立」とか「一人前」が、江戸時代の意識と変わっていないこと。今の常識では、異様にハードルが高いことが問題なのでは

ないかと思いますね。