魅惑の坂道(佐倉の街を歩く)

 千葉県の北東部の電車、総武線であれば千葉の先、京成線であれば、佐倉駅あたりまで来ると、台地と低地が入り組んだ中を電車が走ります。関東平野は日本でも一番ひろい平野だとされていますが、平らな土地がただただ広がっているわけではなくて、台地と平野が入り組んだ複雑な地形になっていることがよくわかります。そんな入り組んだなかにある佐倉の街は、古い城下町ですが、最近は魅力を感じる街のひとつですね。

 佐倉の街は城下町ではあったけれど、有名な武将や藩主を輩出したわけでもなく、一級の旧跡や名所に囲まれているわけでもない。もちろん近代化の恩恵を受け、大発展を遂げたわけでもない。でも、それゆえに静かなたたずまいが保たれています。城下町の多くがそうであるように、佐倉の城跡とその周辺の家老たちの屋敷は、小高い丘のうえに立っています。

 佐倉の街でもっとも魅力的なのが、周囲の低地と城跡の丘をつなぐ坂道です。

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写真はひよどり坂という坂ですが、ほかにもくらやみ坂などと名前がつけられた坂があります。ほかにも、低地にあるJRや京成線の佐倉駅と城跡の丘へと、いろいろな坂道が通じていて、どの道も坂上から下を見下ろすと、ほんのりと暗闇が広がる。もちろん夜ならば恐い場所なのですが、昼間ならばとても魅力的な暗闇ですね。たとえるなら、谷崎潤一郎の「陰影礼讃」で語られるような暗闇の魅力といったら解ってもらえるでしょうか。

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丘を登った先には、高校や中学校が立っています。武家屋敷の何軒かは今も残っていて、中が公開されています。この武家屋敷の敷地というのも、それぞれが立派な塀で囲まれているわけでなくて、ただ生け垣のようなもので仕切られているに過ぎない。佐倉のようにあまり偉ぶらないような、城下町のたたずまいにとても魅力を感じるのです。

 城跡の丘にはもうひとつ、国立歴史民俗博物館という、大きな建物がそびえています。この博物館がテーマとする「歴史」というのも、歴史上の権力者の事物の紹介ではなく、一般庶民のくらしの変遷に軸足がおかれています。そんな施設のありかたも、佐倉という街が、城下町のわりに偉ぶらない印象をもつ理由のひとつでしょう。この博物館もとても好きな場所のひとつなのですが、それはまた別の記事で書くことにします。