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摂関家の走狗(橋本治「双調平家物語ノート〜権力の日本人」を読む(その1))

権力の日本人 双調平家物語 I (双調平家物語ノート (1))


 前回の記事でとりあげた、大澤真幸さんの「日本史のなぞ」で、橋本治さん「双調平家物語ノート」に言及がありました。読んでみたいところですがなかなか入手しづらい本のようです。そんなとき役立つのはやっぱり図書館で、探しては借りて読んだところです。橋本さんの「双調平家物語」はかつて、ひととおり読んでいくつか記事を書いたこともありました。そんな「双調平家物語」の土台となった、橋本さんの思考の動きが「双調平家物語ノート」を読むとよくわかります。時代のありようをわしづかみにする感性は、やっぱり作家ならではのもので、学者では考えつかない視点なんだろうなと。あいかわらずの視点の鋭さに感嘆しています。
 たとえば、平家物語で大悪党とされた平清盛ですが、では具体的に彼が行った「悪行の数々」というのはいったいなんなのか?といえば、それほど具体的に平家物語に書かれているわけではありません。そして平家物語に書かれた清盛に行動を年表に落とし込んでいくと、非常にスカスカな年表が出来上がる。やたらに空白の年月が存在するわけです。そもそも「悪行」をしていないのだから書きようがないのです。それよりは、その間の出来事を書くと都合が悪かったとも考えられます。それは平家物語摂関家の視点から描かれているからで、年表が空白である間の出来事というのは、摂関家と清盛が協調関係にあった期間であったことが読み取れます。清盛を悪人としたい摂関家からそれは都合が悪いわけです。

 さらに付け加えるなら、退廃した平安王朝の中を、さも平清盛は自力の策略でのしあがったように思われていますが、どうもそうではないなとも思っています。保元の乱平治の乱を過ぎてしばらくは、清盛は摂関家の走狗でしかなかったのではないでしょうか。摂関家の争いのなかで、それぞれの勢力が平氏を大きくしていったのが実態だったと。

 保元の乱平治の乱から源平の合戦が始まるまでに20年を経過しています。この2つの乱の結果がただちに、平家の天下と戦乱を呼び起こしたのではなく、むしろ、摂関家と王朝に代表される貴族社会が、身内どうしの争いから自壊していった時代であった。あくまで平安時代の主役は、王朝であり摂関家であることは見誤ってはいけないと思います。