黙々と歩く道(北関東の諸街道10)

f:id:tochgin1029:20180429185314j:image大田原宿までたどり着いたのはひと月まえのことでした。やっと春がやってきて、咲きだした花を楽しみながらの道中でした。すでにあたりは新緑の季節になっていて、まだ若い淡い緑色が日を浴びて透き通っています。
宇都宮からの電車はこの日もゴルフへ向かうグループで賑わっています。西那須野駅で降りてがらがらのバスにのり、大田原の市街地へ向かいます。

  トコトコ大田原というバス停で降りて、そこから街道あるきを再開します。大田原の市街地は、表通りこそきれいに整えられていますが、一歩裏通りに入ればそこはガタガタとした舗装道路が残る古い町です。市街地を見下ろす丘に大田原神社という神社があります。登れば大田原の市街地が見えます。

 f:id:tochgin1029:20180429185345j:image市街地を抜け蛇尾川を渡れば、あたりは次第に郊外の趣に変わっていきます。那須野が原はひと月前とは違っていて、田んぼに水がはられ、まもなく田植えが始まろうかという頃です。その田園の中を抜けていくと、右手には棚倉街道との追分が、左を眺めれば那須岳の姿をみつめながらの行程になります。
f:id:tochgin1029:20180429185410j:image 渡貫のあたりで那須野が原は終わり、丘陵があらわれ、人家もまばらになってきます。沿道にはいろいろな花が咲いています。例年だとさして気にも留めないツツジの花が、とりわけ今年は鮮やかで、花を眺めながらしばらく進めば鍋掛宿に着きます。宿場に入ろうかというところから、黙々と歩く同好の士?らしきおじさんたちを、ちらほらと見かけるようになりました。
f:id:tochgin1029:20180429185448j:image 鍋掛宿のあたりにそれほど旧家は残っていません。芭蕉の句が残る石碑だけが往時をしのばせています。隣接していた高札には、各宿場との距離が載っていて、芦野宿まではあと11キロくらい。今日の行程はそれほど大変ではない距離感だなと思います。
f:id:tochgin1029:20180429185516j:image 鍋掛宿と隣の腰堀宿との間は、実は1キロもありません。どういうことかといえば2つの宿場の間には那珂川が流れてて、深い谷となっています。これを渡るのが難所であるわけです。現代はもちろんかけられた橋を渡るのみですが、山深い場所をわたる両岸は、北関東の歩きで初めて見る渓谷の風景です。ちょうど山藤が咲いていてとても印象的でしたが、カメラで映してみると、あまりはっきりとはわからない写真で、見たときの鮮やかな印象がなくて少し残念ですね。越堀宿も鍋掛宿とほとんど同じような集落で、知らなければなんの変哲もない集落でしか見えないでしょう。
f:id:tochgin1029:20180429185536j:image 腰堀宿を抜け、富士見峠までの道は工事中となってました。わたしのように旧街道を歩く身には、きれいに整備された道はまったく味気ないものですが、生活をする人にとっては便利なほうがいいわけです。山を抜ける工事中の道の上は真っ青な空で、まるで岸田劉生の画「道路と土手と堀」を連想させる風景でした。
f:id:tochgin1029:20180429185604j:image このからの行程はひたすら、いくつかの川と丘陵をまたがります。ここで、同好のおじさんたちひとりひとりを追い抜いて歩いていきます。もちろん「こんにちわ」と挨拶くらいしかは交わしますが、それ以上の話をお互いにするわけではありません。こちらも黙々と歩けば相手も黙々と歩く。仲間と一緒にわいわいがやがやと歩くというよりは、生活のことや仕事のことやいろんな思いを、垂れ流すように考えながら歩いています。ほかの同好の士たちは何を考えながら歩いているのだろうか?などと想像します。
f:id:tochgin1029:20180429185627j:image 丘陵を抜けるころに、芦野宿が遠景で見えます。それなりに大きい集落なのに、外にはあまり人が歩いていないでがらんとしています。本日の行程はここまでです。

 後ろに同好の主があらわれ、ここで初めてまとまった話をします。聞くところ宇都宮から泊りがけの行程で、今日の当日のうちに白河まで向かうとのこと。日帰り軽装のわたしとは、出で立ちもだいぶ違います。同好の士とは言っても、それぞれ指向はだいぶ違うのですよね。
 さて、駅に戻ろうにもまったくバスが走っていません。しかたがなく、近くにある芦野温泉まで行き時間をつぶすことにしました。温泉から黒田原駅までは臨時のバスが通じているようです。またもやがらがらのバスを黒田原駅まで行けば、黒田原の集落にはあまり観光地然としたところがないのが好ましい場所です。それでも高原らしい湿気の少ないさっぱりとした雰囲気が、信州長野の冨士見のあたりに少しにているかなと思い出します。f:id:tochgin1029:20180429185730j:image

黒田原駅の駅舎は旧い洋風建築でした。ひと昔ならふつうにみられた様式の駅舎ですが、現役の駅舎も今では珍しくなりました。窓のステンドグラスが面白くてじっと眺めていました。
f:id:tochgin1029:20180429185655j:image ここまで来て、関東平野はかなり遠くなったことを実感する場所です。次の行程は白河まで、今回の歩きの終点です。