そもそもよく知らない(木村幹「韓国現代史」)

韓国現代史―大統領たちの栄光と蹉跌 (中公新書)

 現在の日本では、残念なことですが韓国のことを「いけすかない隣国」と思っている人が多いのだと思います。そして隣国に出自の関わりをもちつつ日本で暮らす人たちは、長らくは差別の対象になって来たし、今でもヘイトスピーチの対象になっています。彼らを罵倒する人たちのどす黒い情熱は、あまのじゃくな私にとって隣国への興味を覚えました。

 けれど、実は隣国のことは基本的なところさえなにも知らない。なにか本の一冊でも読もうかと図書館に行けば、書棚にはうじゃうじゃ○韓論とやらのオンパレード。隣国の基本的な情報を好悪ぬきで、知ることができないのです。そんな中で見つけた比較的まともな本は、木村幹さんの新書「韓国現代史」でした。韓国の政治の移り変わりと、その時に歴代の大統領はどう対峙していたか、同時並列に書かれているのがおもしろかったですね。ただし、まともなものは、これしかありませんでした。まったく愚かなことです。「反知性主義」というものが身近なところで幅を利かすことの害悪というのは、こういうことを指すのですね。

 「韓国現代史」を読んでみて、日本と隣国の第二次大戦後の歴史が大きく異なるのは、やはり地勢的な違いから来るものが大きいと思いました。海によって守られた島国と違って、周辺国と地続きとなっている半島国では、地勢上の厳しさから、隣国の現代史は、日本よりもはるかに微妙な権力関係の上で成り立っているようです。

 当初は、日本と同じように占領統治下に置かれようとしていた韓国を独立という形に導いたのが李承晩大統領ですが、アメリカで亡命生活を行っていた彼は、対日戦を戦った英雄でもなければ、アメリカの傀儡でもない。日本軍が出ていったあとの、半島を埋めようとしたいろいろな勢力の、微妙なバランスの上に成り立った独立だったようです。しかし、彼は朝鮮戦争の初動でつまづきました。北の電撃的な進軍によって、ソウルが一時占領される一方で、秘密理にソウルから撤退しています。韓国軍は崩壊し、アメリカの援助を頼ることになります。その頃は、後に大統領となる金大中、金永山とも、生死の境を行き抜いています。 

 朝鮮戦争が休戦となった後も、隣国の政治は迷走を続けていて、選挙で選ばれた尹潽善は、朴 正煕のクーデターを押さえることができず、クーデター勢力と妥協しようとしました。休戦したとはいえ、北朝鮮に占領された記憶が生なましいころ。国内を内戦状態にはできないという判断から妥協したのでしょう。 

 クーデタに成功した大頭領の政治は、いわゆる開発独裁の政治で、政治勢力と財閥が結びついて経済を成り立たせていくのですが、やがて権力維持そのものが目的化していきます。有名な金大中の日本での拉致事件は、そんな中で起きています。身辺の自由を奪うことで政敵をけちらしていく彼の政治は、暗殺されるまで続きます。このあとの迷走する隣国の政治、学生運動と軍隊の対決や、光州事件のことは子供のころのニュースでリアルタイムに覚えています。 

 民主化に成功した後も、軍人でもあった盧泰愚が大統領に就き、 盧武鉉政権ではイラク戦争に協力し犠牲を払っている。党派に関係なく軍事的手段に対する抵抗感はないように思います。敵対する隣国を間近にすることで、時の権力は秘密を抱えることが、よしとされるけれど、権力者の秘密主義が腐敗を呼びます。日本とは異なる風通しの悪さを感じさせますね。

また韓国の政治の特徴は、 政敵と思われる政治家同士が突然連携したり、政党の改廃や合併話が頻繁かつあっけらかんとしています。日本の政治家ならば「野合」は、政敵から批判される元になりますが、隣国の政治では、それはあまりない。実にあっけらかんとしているように思いました。 

 歴代の大統領のいく人かが実業家としての経験を持っています。そして実業家としても有能であったようです。そのようなありかたの政治家たちが、大統領に就く。韓国が日本以上の企業社会なのだということを実感させますね。