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橋本治「江戸にフランス革命を!」を読む5

 どこもかしこも、忙しく動き回るのが日常である中、ともすれば、古の人たちはさぞや、のんびりしていたのだと思いがちですが、そうではなくスピードのある時代だったということです。

 橋本治さんの「江戸にフランス革命を!」は、昔の人たちが、さぞやのんびりしていたのだろうと言う誤解に、いや、そうではないと述べています。のんびりはしていましたが、仕事は早かったといいます。

 なぜかというと、スピードの質がいまとは違うと言うことです。いまでは、物を運ぶのであれば、運送便を頼めるし、電車を使えば、いつでもあえるという気楽さがあるし、なにより、電話はもちろん電子メールといった手段でいつでも伝えることができるようになりましたが、昔はそんなことはない。交通手段も物を運ぶ手段も情報を伝える手段も限られた中、なにが早いのだといえば、物事を進めるのに、即断即決が基本だということ。これにつきるのではないでしょうか?営業マンだったら「社に持ち帰って検討します」という口上は通用しないということ。しかも、判断を下すために必要な情報は今よりも少ないなか、昔の人たちの、物事をきめていく感度は、現代人の数倍も鋭かったと想像できます。

 橋本さんは、歌舞伎の舞台が演じられるまでを例として取り上げています。狂言作家と呼ばれる歌舞伎の作家は、全体の台本を2部つくり、台本の片方は自分で持っていますが、もうひとつは座頭と呼ばれる、演者代表のような役者が持ちます。最初から劇の全体像を知る人はこれだけで、専任の演出家は存在しません。まして、座頭以外の役者たちが、今のように誰でも全体を印刷されたコピーを渡されるわけではありません。

 実は、座頭以外の役者たちが渡されるのは、狂言作家の弟子たちが、台本を役者ごとに分解した書き抜きだけで、演じるまえに集合して、作家が自ら台本を読みきかせてやっと全体を理解する。それだけなのです。そして、そこからやくどころを理解できる能力を持つ者だけが「プロ」として通用する。簡単に複製ができる現在からは、驚異的な能力だと思います。

 情報ばかり飛び交いながら、結局ものごとを決められないのが、現在のビジネスで意志決定の実状ですが、ITなど必要としないなか、むやみやたらと情報をかき集めなくとも、昔の人はえいやっと決めることは決めていたということ、特にサラリーマンは、覚えておいたほうがいいと思います。