江戸の人つながり(松尾芭蕉「奥の細道」「曽良旅日記」)

芭蕉 おくのほそ道―付・曾良旅日記、奥細道菅菰抄 (岩波文庫)

 岩波文庫版の「奥の細道」を購入すると、巻末に「曽良旅日記」という名称の、松尾芭蕉に付き添った曾良が書いた日記が付いています。これを読むととても興味深いことがかかれていて、松尾芭蕉の本編よりも、実はこちらのほうがおもしろかったりするのです。

なぜ、松尾芭蕉が旅をしたかについては、いろいろな珍説が流れていて、スパイだったとか芭蕉を監視するために曾良が同行しているのだとう珍説?まであります。あまり、その真実がどうこうには私は興味はありませんが、芭蕉たちがどんな行動したのかには興味がそそられますね。 

 もちろん、芭蕉の徒歩の旅は、途中の宿を点々と泊まりながら進むのですが、まったくわきめも降らずに延々と歩いていたのか?といえば、もちろんそんなことはないですね。そんなでは数々の名句など残せませんね。主な宿泊地では、名所旧跡を訪れて数日間を滞在する。あるいは、俳句の門人たちがいて、夜はそんな門人たちとの句会をして過ごす。門人たちの本当の職業がなんなのかは書かれませんが、おそらく、その土地土地の名士かもしれません。芭蕉の来訪を心待ちにしていたのでしょう。門人たちのもてなしを受け、ことわり切れずにお世話になったこともたびたびのようです。そんなことのあれこれが、旅日記にかかれていて、おもしろいですね。

 芭蕉の俳句の門人たちが各地にちらばっていること、多くの門人が初対面ではなく、江戸で会ったこともある云々と書かれており、江戸の庶民は、現代の私たちが思うよりも、かなり行動半径がひろいことと、地方の文化の豊かさが、いまのような、東京から地方への一方通行でない、おもしろさを感じるのです。

 このような門人の広がりは、芭蕉に限ったことではないのだと思います。鉄道も道路もない時代に、そんな全国規模の人つながりのネットワークが貼り巡らされていたことは、現代の暮らしからは想像もできない世界で、それでもその世界のことを想像するのは、とても楽しいものです。