廃仏棄釈の恐怖(安丸良夫「神々の明治維新」岩波新書)

国家神道が太平洋戦争の敗戦とGHQの処分によって、戦後になくなったわけではなく現代も生きている。しかも現代ではその存在が見えなくなっている。という島園進さんの問題系について、以前の記事で述べました。毎日のように、政治どころか芸能ネタまでも…

ブラジルの大西洋岸を感じさせる音楽(エグベルトジスモンチの音楽について)

昨日、練馬文化会館で行われた、エグベルトジスモンチのコンサートに行ってきました。その興奮に任せて書いていますのでご了解ください。 本当はこのコンサートは、ナナヴァスコンセロスとのデュオとなるはずでしたが、ナナが亡くなってしまい、急遽、ジスモ…

シティポップの盛衰(ピチカートファイブの「闘い」について)

Youtubeで検索すれば、有名無名なさまざまな歌手の曲をなつかしく聴くことができます。一部分のフレーズだけを覚えていた聴いたことがある曲と偶然に出会うのはけっこう楽しいものです。私にとっては、70ー80年代に業界のある部分を占めていた「シティポ…

人間が真ん中でない(来迎図と地獄絵の世界観)

伴大納言絵巻の他にも、出光美術館の50周年の記念展示は力が入っていて、興味深い数々の絵巻物や屏風絵などが展示されています。時代別に3期にわかれた展示のうち、第1期である今回の展示は、だいたい鎌倉~南北朝までの作品が展示されています。たとえ…

「伴大納言絵巻」から読み取る

出光美術館は、中世に描かれた絵巻物や屏風絵、いわゆるやまと絵が多く展示されること多くて、好きな美術館のうちのひとつです。公立の美術館の多くが、採算ベースに載るように集客に力を入れるばかりに、ゆったりと展示を楽しめる環境でなくなっているけれ…

自由と平等を賭けた明治維新(中公新書「谷干城」)

今週になり「パナマ文書」と称する書類の内容が暴露され、国際的なニュースとなっています。そこには、ペーパーカンパニーを多数こしらえて「節税」に励む世界的な有名企業の姿が露わになっていて、その中に日本企業も含まれています。企業だけではなく、ロ…

国体教と排除の論理

東西のいろいろな文化を取り込みつつ自分たちのものにつくりかえてきたことが日本文化の特質だと、よく言われますが、ではそういう社会が敷居の低いオープンな社会ではなく、なぜに閉鎖的な社会なのはどういうことなのかと思います。無宗教とされてきた列島…

これは宗教なのだろう(島薗進/中島岳志「愛国と信仰の構造」)

島園進さんと中島岳志さんの対談による、集英社新書「愛国と信仰の構造」という本を読みました。タイムライン上でもさまざまな方が取り上げています。島園さんの名は、原発事故にかんするTweetで、流れてくるものをよく見かけるのですが、本職は宗教学なので…

リテラシーを持たない恐ろしさ

今朝のラジオで、推薦入学を申し込んだ生徒に、担任がサーバーに保存された誤った情報をもとに推薦を拒否して、それを苦にした生徒が自殺をしたとニュースが流れました。痛ましいことです。 先生に限らず、現在は事務職であれば、ITの様々なデータベース情…

真っ黒い岐阜の街(東と西が交差する旅2)

岐阜の市街地は実は案外広くて、駅のあるあたりから、鵜飼いで有名な長良川のあたりまでは、けっこう離れています。離れたところを最近まで路面電車が走っていましたが、いまではなくなってしまいました。残念なことだと思います。岐阜では、鵜飼い観光船に…

圧巻の日本ライン(東と西が交差する旅1)

中山道を巡る旅は、長野県を過ぎて岐阜県まで進み、東濃と呼ばれる地域を過ぎたあたり、美濃太田宿まで歩いたところです。今回はその先を進みます。 このあたり、かつては「日本ライン」と呼ばれた、木曽川の川下り観光がかつて盛んな地域だったのですが、二…

なんでも「お国」を前提とするわたしたちの思考の歪み(講談社新書「アイヌ学入門」)

関東に住む私にとって、アイヌの人々というのはけっして身近ではありません。北海道土産の民芸品のなかに、アイヌ文化の香りを感じるくらいです。最近では「アイヌ民族は存在しない」などと発言する議員があらわれる始末だし、80年代には、当時の中曽根首…

幸田露伴の「五重塔」に近代的自我を見る(橋本治「失われた近代を求めて」番外)

橋本治さんの「失われた近代をもとめて」のシリーズをもとに、口語体と文語体との関係を考えています。では書き言葉と話し言葉は太古の昔から異なっていたか?といえばそうでもなく、谷崎潤一郎は、平安時代に話されていた言葉が、源氏物語に代表される当時…

本当に日本語の進化だったのだろうか?(橋本治「失われた近代を求めて3」)

夏目漱石の「坊ちゃん」はいまでも、多くの人に読まれる作品ですが、視点を変えれば、前近代と近代の対立をベースとして描かれた小説です。勉強が嫌いなくせに先生をする主人公の坊ちゃんは前近代の方。反対に、赤シャツと呼ばれる教頭は、話のはしばしに洋…

まだ成熟していない(橋本治「失われた近代を求めて」)

すぐれた文章表現のことを、橋本治さんは「文章そのものが語り出す」と述べていました。成熟していない口語体は、文章と書き手の間に、自身の実存を込めなければ表現にならなかった。だから口語文が生まれたばかりの頃、作品で自分の事を語るような小説ばか…

実は凄かった田山花袋の「蒲団」(橋本治「失われた近代を求めて1」)

橋本治さんが書かれた「失われた近代を求めて1ー3」のシリーズをこの正月に読んでいました。読んでも読んでも読み切れないくらいの本を橋本さんは書かれていて、現在でもつぎつぎに新しい本が刊行されている。この「失われた近代」で橋本さんが対象とした…

明治人の力量(学術文庫「日本の歴史21」明治人の力量)

一年前に、どんな記事を書いていたのだろうとひっくり返したところ、12月18日に、松本健一さんが書かれた明治天皇のことに言及しています。明治という時代を引っ張ったというよりは、時代に振り回された感が強い明治天皇の一生は、「ご一新」の号令のも…

山道を下りて(美濃路を歩く(その2))

翌朝の宿は、布団からでるのが、おっくうになるような寒さでした。宿には宿帳が残されています。ぱらぱらとめくると、海外の方も多く訪れているようです。私も少し書きましたが、先人たちのようにはうまくかかけないですね。宿帳をめくると、勤めを終えたよ…

坂また坂の十三峠(美濃路を歩く(その1))

木曽路を過ぎ大井宿まで到達したのは9月の頃でした。その後、いろいろと気にかかることも片づいたので、中山道のつづきを久しぶりに歩きたくなりました。進めば進むほど自宅からは遠くなるのがこの旅の宿命ですね。さすがに、今回は現地まで新幹線を使って…

自分の右手と左(日本語からの逃避)

しばらくツイッターをやっていれば、見たくもない誹謗中傷や罵詈雑言 のツイートがタイムラインに紛れ込んでしまうことも年中。久しくガメ(@gamayauber01 )さんという方のアカウントをフォローしているのですが、彼に対して延々と誹謗中傷を続けているという…

そもそもよく知らない(木村幹「韓国現代史」)

現在の日本では、残念なことですが韓国のことを「いけすかない隣国」と思っている人が多いのだと思います。そして隣国に出自の関わりをもちつつ日本で暮らす人たちは、長らくは差別の対象になって来たし、今でもヘイトスピーチの対象になっています。彼らを…

弱腰でも無能でもない(学術文庫「日本の歴史18」開国と幕末変革)

先週、歴史検定を受けました。歴史検定の一級ともなると、どうにも雑学の集積だけでは歯がたたないなと思い、 シリーズになっている日本通史を、図書館で借りながら読み進めました。 たまたま近所の図書館に置かれているのは、講談社学術文庫のシリーズです…

鎌倉時代の可能性3(藤沢 遊行寺「一遍上人聖絵」2)

もの好きなもので、2回目の「一遍上人聖絵」見学に、またも藤沢の遊行寺にまで行きました。交通費をケチろうかと、保土ヶ谷駅で降りて藤沢まで東海道の跡を歩くのです。保土ヶ谷のあたりを歩けば、谷底のような地形を流れる川の薄暗いほとりに神社があった…

ポエムにならない絵画2(馬頭広重美術館「小林清親展」)

栃木県の馬頭広重美術館というところで開催されている小林清親展を、見に行きました。電車やディーゼル車、町営バスを乗り継いでたどり着く美術館の、なんて遠かったこと!けれど、出かけるだけの価値がある展示でした。 小林清親は、最後の浮世絵師と呼ばれ…

めんどくささに耐える(民主主義について)

先々月の安保法制に対する国会前抗議に出かけ、民主主義という仕組みは、単に選挙に行って投票することだけなのではない。ということを多くの人たちが体感したのだと思います。その間に行われた2~3の世論調査では、このようなデモに参加したいかどうか?…

鎌倉時代の可能性2(藤沢 遊行寺「一遍聖人聖絵」)

国宝の「一遍聖人聖絵」が現在、藤沢の遊行寺というお寺で展示されていることを知り、見にに行きました。最近はこのような展示に行けば、若い人はほんとうに少ないものです。お年寄りばかりだというのは少し寂しいですね。館内は、老人が職員にひたすら自説…

桃山の時代精神みたいな(出光美術館「桃山の美術」展)

もう一週間もまえのこと、出光美術館に「桃山の美術」展を見に行きました。古来の絵巻物や屏風絵を所蔵しているこの美術館では、こうした屏風絵や絵巻物の展示を時々することがあって、好きな美術館のひとつです。そして、ここから見える皇居の眺めも好きな…

わたしたちはもう答えを見つけている(橋本治「バカになったか日本人」)

シルバーウィークの連休中は、叔母の法事のために新潟に行きました。寺に行きお経を読んでもらいつつ、式が終われば和尚さんの話など聞くのですが、安保法制の話は、そのような席でも話されています。親族との会話でも安保法制の話はでています。法事の席で…

ポエムにならない絵画(藤田嗣治の戦争画)

国立近代美術館では、現在、藤田嗣治の戦争画が特集として展示されています。藤田嗣治は、日中戦争~太平洋戦争で従軍し、数々の戦争画を残しています。橋本治さんの「ひらがな日本美術史」によれば、とかくポエムに陥りがちな日本近代美術の迷走に迷走を重…

自分の心と身体(藤原新也「乳の海」再読)

藤原新也さんの「乳の海」という本を再読しています。これは、大学生の頃に社会学の授業の夏休みの宿題になった本です。大教室ではなされるその講師の授業は、多くの学生が居眠りをこいているような授業でしたが、たとえば上野千鶴子さんのジェンダー論のか…